【原文】
柿本人麻呂
東 の 野に炎 の 立つ見えて かへり見すれば 月傾 きぬ阿騎 の野に 宿る旅人 打ち靡 き眠 も寝 らめやも古 思 ふに
【現代語訳】
東の野の夜が明けようとし、明るくなってくるのが見えて、西の方を振り返ってみると月は山の端に傾いています。
安騎の野に仮寝をする旅人は、くつろいで寝ることができましょうか。いや、眠れはしません。昔の日々が思い出されて。
Collection of Ten Thousand Leaves
【原文】
柿本人麻呂
東 の 野に炎 の 立つ見えて かへり見すれば 月傾 きぬ阿騎 の野に 宿る旅人 打ち靡 き眠 も寝 らめやも古 思 ふに
【現代語訳】
東の野の夜が明けようとし、明るくなってくるのが見えて、西の方を振り返ってみると月は山の端に傾いています。
安騎の野に仮寝をする旅人は、くつろいで寝ることができましょうか。いや、眠れはしません。昔の日々が思い出されて。
【原文】
柿本人麻呂
敷島 の大和 の国は言霊 の幸はふ国ぞ ま幸 くありこそ
(長歌)葦原 の瑞穂 の国は神 ながら言 挙 げせぬ国
しかれども言 挙 げぞ我 がする 言幸 く ま幸 くませと
つつみなく幸 くいまさば荒磯浪 ありても見むと百重浪 千重浪 にしき言 挙 げす我 は言 挙 げす我 は
【現代語訳】
大和の国は言葉の力の咲きほこる国です。御無事でいっていらっしゃい。
(長歌)
葦原の瑞穂の国は、神意のままに言挙げせぬ国。
けれども、わたしは言挙げをします。
お元気に、ご無事でいらっしゃいと。
つつがなく、お元気であられたら、荒磯波があっても、そのうち逢えましょうと。
【英訳】
As the land of reeds, the land of plenty rice-plants,
Is of God’s nature, men have no high words at all,
Yet nevertheless, I would speak it up in high words
That my lord may be as happy as happy can be,
Without any harm, he may be blessed with fortune;
If so, like the waves, I shall continue to live
And meet him again; I will speak up in high words
Incessantly like the waves.
This country of isles, Shikishima, Yamato,
Is the very land
Where thrives the soul of language;
Therefore, may my lord be blessed.
【原文】
大伴部麻与佐
天地 の いづれの神を 祈らばか愛 し母 に また言 問 はむ
【現代語訳】
天地のどちらの神々に祈ったらいとしい毋にまた言葉をかけられられるでしょう。
【原文】
つき草の 移ろひやすく 思へかも わが思ふ 人の
大伴坂上大嬢言 も 告げ来 ぬ
【現代語訳】
露草のようにすぐに変わりやすい気持ちで思っているからなのでしょうか、恋しい人が何も言ってこないのは。
【英訳】
Maybe my dear man
Has a heart as changeable
As a dayflower,
For nowadays my dear man
Has not sent me any word.
【解説】
道ばたに咲くつゆ草は、青い花の色が着きやすいことから月草と呼ばれていました。
しかし、朝咲いた花が昼にはもうしぼんでしまうから、はかなさの象徴でした。
坂上大嬢が大伴家持に贈った恋の歌。