思はじと言ひてしものを

【原文】

思はじと ひてしものを 朱華色はねずいろうつろひやすき わが心かも
われのみそ 君には恋ふる わが背子せこが 恋ふとふことは ことなぐさ
思へども しるしなしと 知るものを なにかここだく わが恋ひわたる

大伴坂上郎女

【現代語訳】

もう思うまいと言ってはみても、はねず色のように、なんと変わりやすい私の心。
私だけが、あなたに恋をしているのです。あなたが恋をしているというのは、単なる言葉の気休めなのですね。いくら思っても甲斐がないと知っているのに、どうしてこんなに、わたしは恋つづけるのでしょう。